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百枝幹雄 先生

聖路加国際病院 副院長

聖路加国際病院 百枝幹雄 副院長先生

百枝幹雄

子宮内膜症は、30年前と比べて確実に増えている

子宮内膜症という病気は、本来、子宮の中にある組織が、子宮の外にある卵巣やおなかの中で増殖する病気です。炎症や癒着を起こすと、生理痛や腹痛などの痛みが現れます。

また、何も治療をせずにいると、卵巣にできた子宮内膜は出血を繰り返し、チョコレート色をした古い血が袋のように溜まり「チョコレート嚢胞」という病気を引き起こします。さらに何もせずにおくと「卵巣がん」に進行するなど、命の危険を及ぼすこともあります。

子宮内膜症は、病気の進行を4つのステージに分けて判断します。初期段階のステージ1~2は、エコーなどの検査機器には明確に異常が出ないので、患者さんへの質問(問診)と内診を中心に、発症している場所を確認していきます。また、超音波検査(エコー)やMRIなどの検査機器を用いて、病気の場所やステージを判断していきます。

私は、東京大学に在籍していた30数年前から、子宮内膜症の研究や臨床、治療や治験を行っていますが、そのころから比べると、子宮内膜症の患者さんは確実に増えています。そのひとつの要因に、医療の進歩が挙げられます。

エコーやMRIなどの検査機器の発達に加え、内視鏡手術も発展してきました。子宮内膜症は、医師が直接病変を確認する「直視」を行えば、すぐに確定診断が行えます。しかし「直視」を行うには、おなかの中を直接診るために、開腹手術を行う必要があります。これは、現実的ではありません。

一方で、不妊治療にも用いられる内視鏡手術は、術後の患者さんの負担も少なく、入院期間も少ないことから、多く用いられています。腹腔鏡手術の発展で、医師がおなかの中を「直視」する機会が広がり、潜在的な患者さんが明確になったことが、患者さんが増えているひとつの要因と考えています。

また、近年の女性のライフスタイルの変化も要因のひとつとして挙げられます。

社会の成熟に伴って、晩婚化と高齢出産の傾向はますます強くなっています。この傾向は、良性ではあるけれども進行性の子宮内膜症が重症化する傾向にあります。

若年のうちから出産を意識し始めると、例えば、「月経痛が強い」や「不正出血がある」など、早期受診のきっかけと意識があります。しかし、バリバリと仕事をしていると、そもそも受診する時間もなく、「月経痛はストレスなど環境の問題」と決めつけて、受診がずるずると伸び、治療開始が遅くなる傾向にあります。

子宮内膜症は、良性ですが進行性の病気です。早期受診と早期の治療開始が、その後の女性のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を決めると言っても過言ではありません。月経痛が強いなどの症状があるなら、早期に受診することを強くお勧めします。

そしてもうひとつの要因として、啓蒙や啓発を通じて、子宮内膜症を正しく理解する人が増えてきたということが挙げられます。これは、患者さん側だけでなく、産婦人科医側の理解促進も含まれています。

私たち医師や医療従事者側の啓蒙や啓発のひとつとして「子宮内膜症情報ステーション」というサイトがあります。(URL/http://www.jecie.jp)

子宮内膜症の原因や治療法などをわかりやすく掲載していると同時に、「日本子宮内膜症啓発会議」では、女性関連学会・啓発団体・企業・メディアが一体となって、子宮内膜症や月経困難症の啓発活動を行っています。会員の医師や医療機関も紹介していますので、ぜひ一度、サイトを訪れてみてください。

ここ数年、子宮内膜症の認知は確実に広がり、それに伴い、受療率も少しずつ増えており、「もしかして」と思う患者さんが、早期に受診していると感じています。

子宮内膜症の診断と治療は少しでも早いほうが良い

月経のある女性の80%は月経痛があり、月経痛で受診した人の25%は子宮内膜症を抱えています。月経痛は、子宮内膜症などの女性特有の病気の重要なサインです。

「生理痛ぐらいで病院に行くなんて」というような固定観念で我慢したり、市販の鎮痛薬でごまかしたりしている人も多く見受けられます。

また、若い人にとって、産婦人科での診察はハードルが高く、もしかする、そもそも診療所へ行こうと思わないかもしれません。

しかし、子宮内膜症を放置しておけば、たとえ軽症だとしても、妊娠力を低下させる要因のひとつになりますし、慢性的な下腹部の痛みは、日常生活にも支障が出ます。早期の受診で、早期に治療を開始することがとても大切です。

治療方法も、早期であれば薬の治療で済みます。いわゆる、ホルモン療法になりピルを服用します。しかし、かなり進行している状態、例えば「チョコレート嚢胞」などに進行してしまうと、場合によっては手術が必要なこともあります。

市販の鎮痛薬は、月経痛を一時的に抑えてくれます。しかし、子宮内膜症の進行を抑えるわけではありません。つらい痛みがあるなら、すぐに医師の診断を受けてください。

聖路加国際病院の「女性総合診療部」の役割について

聖路加国際病院は、地域の中核として、また3次救急病院として様々な役割を担っていますが、わかりやすくお話をすると、難しい病気やけがの患者さんを優先的に治療する病院です。ですので、女性総合診療部で診察する「子宮内膜症」の患者さんも、重症化している場合が多いです。

当院の女性総合診療部は、周産期科・一般婦人科・女性外科の3つの領域から成り立っています。

子宮内膜症を例にすると、完治が難しい病気なので、長く付き合う病気と言うことになります。長期的な薬の服用もあれば、不妊の問題も絡みますし、チョコレート嚢胞からの卵巣がんへの進行も気を付けなければなりません。

患者さんの「その時だけの痛みを取る」だけでは、長期に付き合う病気に対応できません。

子宮内膜症は、女性のライフステージのすべてに関係する病気なので、そういう意味では、不妊の問題とか周産期の問題、オンコロジー(がん)の問題とか、全部連携して診ていくことがとても大事です。

当院の「女性総合診療部」は、女性のライフステージに関係するすべての病状を見ていくためのチームなので、予防的から治療、治療後の病態管理も含めて、長期的に見渡して治療計画を立て、患者さんとともに治療を進めていきます。

例えば、「チョコレート嚢胞」の手術は、嚢胞の大きさが4cmを目安に判断しますが、6cmの嚢胞を抱えている患者さんが、妊娠や出産を考えていなければ、手術後の再発リスクも考えて、患者さんのQOLに沿って、あえて手術をせずに投薬治療を中心に行うという選択をすることもあります。このように、患者さんとともに、病気と向き合うために、スタッフが技術を磨き、日々、患者さんとともに歩んでいます。

また、セカンドオピニオンでは、今の治療法が本当に自分に合っているかどうか、というところも含めて、相談に訪れる患者さんもいます。

聖路加国際病院の女性総合診療科では、医学的な手法と患者さんの希望すること、この双方をしっかりと考え治療計画を立て、総合的に長期的に、患者さんとともに治療に向き合っています。